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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(あ)1701号 判決 1961年12月14日

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を罰金五〇、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

被告人から一九一、一〇〇円を追徴する。

理由

弁護人林三夫の上告趣意について。

所論は判例違反をいうが、所論引用の仙台高等裁判所秋田支部の判決は、昭和二七年(あ)第二九九一号同三三年六月二日当裁判所大法廷判決(刑集一二巻九号一九三五頁)の趣旨に反するものであり、所論引用の当裁判所および東京高等裁判所の各判例は、いずれも事案を異にし本件に適切でないから、判例違反の主張はすべてその前提を欠き不適法であり、その余の所論は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

次に職権をもって調査するに、原審の是認した第一審判決認定の事実は、被告人は関税逋脱品であることの情を知りながら、氏名不詳者から外国製腕時計合計七七個を有償取得し、さらに原審相被告人平田誠一は、同じく情を知りながら、被告人から右七七個の時計の内の六七個を含む外国製腕時計合計一三九個を有償取得し、かつ右七七個の時計の内の他の一〇個を運搬したというのであって、原判決は、右事実関係に基づき、平田誠一から没収の言渡のあった七七個の時計は、被告人の右犯罪にかかり、被告人はこれを平田誠一に売渡したがなおそれに代わる価額を保有するものであるから、関税法一一八条二項により犯罪当時の価格に相当する金額を追徴しなければならないとして、その価額三六〇、六〇〇円を追徴する旨の言渡をしたことが明らかである。

しかし右第一審判決認定の事実によれば、同判示七七個の時計は、同条一項に掲げる同法一一二条の犯罪にかかる貨物であり、右平田誠一がその情を知って被告人から有償取得しまたは運搬したものとして、原審において右平田に対し没収の言渡をしているのであるから、右一一八条二項にいわゆるこれを没収することができない場合または没収しない場合のいずれにも当らないことが明らかであって、同項によりその価格に相当する金額を追徴することは、許されないものといわなければならない。しかるに原判決は被告人に対しこれが追徴の言渡をしているのであって、原判決は、この点において同項の解釈を誤った違法があり、その違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであり、被告人に関する部分を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって刑訴四一一条一号、四一三条但書に則り原判決中被告人に関する部分を破棄し、さらに次のとおり判決する。

法律に照らすと、被告人の所為は関税法一一二条一項、一一〇条一項、罰金等臨時措置法二条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、所定罰金額の範囲内で被告人を罰金五〇、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法一八条に従い金二五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、被告人が原審相被告人平田誠一に譲渡した外国製腕時計六七個(証第一号の一ないし六、同第二号の一ないし四、同第三号の一ないし一九、同第四号の一ないし二九、同第七号の一ないし九)の代金合計一九一、一〇〇円は、被告人が原判決の是認した第一審判決判示第二の犯罪行為によって得た物の対価として得たものであるが、特定された金銭でなく、これを没収することができないから、刑法一九条一項四号、一九条の二に従い被告人から主文末項のとおり追徴することとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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